鴨川のはりねずみ

3次方程式 x^3-3x+1=0 について

目次

多項式 $f(x) = x^3 - 3x + 1$ の根 $f(x) = 0$ について調べます.

グラフの概形

$f(x)$ の微分は $$f'(x) = 3x^2 - 3 = 3(x^2 - 1)$$ ですから, $f(x)$ は $x = \pm 1$ に変曲点を持ち, $x > 1$ では単調増加, $-1 < x < 1$ では単調減少, $x < -1$ では単調増加です. $f(1) = -1$, $f(-1) = 3$ により $f(x)$ は $x< -1$, $-1 < x < 1$, $1 < x$ にそれぞれひとつずつ根を持ちます.

従って $f(x)$ に実数以外の根はありません.

三角関数による解

$f(2) = 3$, $f(-2) = -1$ ですから, $f(x)$ の根 $\alpha$ は $|\alpha| < 2$ を満たします. そこで $x = 2 \cos \theta$ を $f(x)$ に代入すると $$f(2\cos\theta) = 8 \cos^3 \theta - 6 \cos \theta + 1 = 2 \cos 3 \theta + 1$$ となるので, 方程式 $f(x) = 0$ は $$\cos 3 \theta = - \frac12$$ に帰着できます. この方程式を満たす $\theta$ は $3\theta = \frac{2}{3}\pi, \frac{4}{3}\pi, \frac{8}{3}\pi, \frac{10}{3}\pi, \cdots$ である. もとの変数 $x = 2 \cos \theta$ に戻すと $$x = 2 \cos \frac29 \pi, \ \ 2 \cos \frac49 \pi, \ \ 2 \cos \frac89 \pi$$ を得ます. その近似値は以下の通りです. $$2 \cos \frac29 \pi = 1.532088886237956$$ $$2 \cos \frac49 \pi = 0.34729635533386083$$ $$2 \cos \frac89 \pi = -1.8793852415718166$$

Cardano の公式による解

$x = u + v$ を $f(x)$ に代入すると $$f(x) = (u^3 + v^3 + 1) + 3 (u + v ) (u v - 1)$$ となります. そのため, もし $$u^3 + v^3 + 1 = 0$$ $$u v - 1 = 0$$ を満たす組 $(u, v)$ を見つけることができれば, 求める根は $u + v$ として得られます. 補助多項式 $g(y) = (y - u^3) (y - v^3)$ を展開して整理すると $$g(y) = y^2 - (u^3 + v^3) y + (u v)^3$$ すなわち $g(y) = y^2 + y + 1$ を得ます. その根 ($u^3$, $v^3$) は容易に求まって $$u^3, v^3 = - \frac12 \pm \frac{ \sqrt{- 3} }{ 2 }$$ です. 複号の選び方で2通りあるのが $u^3$ と $v^3$ というふたつの数に対応します. ここでは $u^3$ は複号 $+$, $v^3$ は複号 $-$ に選ぶことにします. よって $f(x)$ の根 $\alpha$ は $$\alpha = \sqrt[3]{ - \frac12 + \frac{ \sqrt{-3} }{ 2 } } + \sqrt[3]{ - \frac12 - \frac{ \sqrt{-3} }{ 2 } }$$ と求まりました.

しかしこの Cardano の公式による表示では, 3個の根があるはずなのにひとつの表式しか得られず, 状況が見通しにくいです. そこで $u$, $v$ を極表示してみます. $$|u^3| = |v^3| = 1$$ $$\mathrm{arg}\,u^3 = \frac23 \pi , \ \ \mathrm{arg}\,v^3 = \frac43 \pi$$ ですから, $u^3 = e^{\frac23 i \pi}$, $v^3 = e^{\frac43 i \pi}$ です. よってこれらの数の立方根を取れば $u$, $v$ を求めることができますが, 立方根の選び方にはそれぞれ3通りあるため $$u = e^{\frac29 i \pi} , \ \ e^{\frac89 i \pi} , \ \ e^{\frac{14}{9} i \pi}$$ $$v = e^{\frac49 i \pi} , \ \ e^{\frac{10}{9} i \pi} , \ \ e^{\frac{16}{9} i \pi}$$ となり, 合計9通りの選び方が生じます. しかし, いまもうひとつの条件 $$uv - 1 = 0$$ が課されているため, $u$ の選び方を決めた時点で $v$ のどの立方根を選ぶかが決まってしまい, その結果として3通りの根が得られます. これがもとの3次多項式 $f(x)$ の3個の根です.

Galois 理論

根の三角関数による表示に現れる偏角は $\frac29 \pi$, $\frac49 \pi$, $\frac89 \pi$, $\frac{16}{9}\pi \equiv - \frac29 \pi$, ... となっており, 2倍角の公式を繰り返すことで3つの根を順に辿ることができます. これは Galois 理論を用いて解釈できます. $f(x) = x^3 - 3x + 1$ の判別式は $D = - ( 4(-3)^3 + 27 ) = 27 ( 4 - 1 ) = 81$ と求まりますから, $\sqrt{D} = 9 \in \mathbb{Q}$ です. よって $f(x)$ の Galois 群は3次の巡回群 $C_3$ です. このことが根の巡回性と対応します.

$\alpha = 2 \cos \frac29 \pi$ とおくとき, 巡回拡大の一般論から $f(x)$ の最小分解体 $L$ は $L = \mathbb{Q}(\alpha)$ になります. $f(x)$ は $\alpha$ の最小多項式であり $$\alpha^3 - 3\alpha + 1 = 0$$ が成り立つことに注意すると, 他の根は $$2 \cos \frac49 \pi = 2 [ 2 (\alpha/2)^2 - 1 ] = \alpha^2 - 2$$ および $$2 \cos \frac89 \pi = 2 [ 2\{2(\alpha/2)^2 - 1\}^2 - 1 ] = \alpha^4 - 4\alpha^2 + 2$$ $$= \alpha(3\alpha - 1) - 4\alpha^2 + 2 = - \alpha^2 - \alpha + 2$$ となります. よって $f(x)$ の巡回関数として $q(x) = x^2 - 2$ または $q(x) = -x^2 -x + 2$ を取ることができます. あるいはこれを多項式環 $\mathbb{Q}[x]$ を $f(x) = x^3 - 3x + 1$ が生成するイデアルで割った $\mathbb{Q}[x]/(f(x))$ の商体の元と見れば, $$x^2 - 2 = \frac{x - 1}{ x }$$ $$-x^2 - x + 2 = \frac{ 1 }{ 1 - x}$$ です.

参考文献