鴨川のはりねずみ

ブラームスのヴァイオリン協奏曲における重音奏法

ブラームスのヴァイオリン協奏曲作品77における, 第1楽章の第164小節からのソロヴァイオリンの次のパッセージについてです.

この譜例は Breitkopf & Härtel の旧全集版に基づいて作成したものですが, 第166小節の3拍目は明確に E 音が二重に書かれており, E線とA線で同じ音を二重に演奏するよう指示されていることが読み取れます. なお再現部の第405小節からのパッセージも同様です. これは Simrock の初版譜および Brahms の自筆譜 (どちらも IMSLP でダウンロードできます) でもそうなっていますし, Henle の新版でもそうです.

一方で, いくつかの CD では開放弦側を省略して演奏しています. そうすることで三度の重音をたっぷりと演奏でき響きが豊かになるほか, 開放弦の鋭い響きを嫌ったなどの理由が想像できます. しかし個人的には第164小節の二度の和音と第166小節の一度の和音という対比を重視して開放弦を省略しない方が好みです. Brahms もそう指示している訳ですし. ということで, いくつかの音源についてこの箇所をどのように演奏しているのか調べました.

ソリスト指揮者録音年一度の重音
ジネット・ヌヴーハンス・シュミット=イッセルシュテット1948
クリスチャン・フェラスヘルベルト・フォン・カラヤン1964
イツァーク・パールマンカルロ・マリア・ジュリーニ1976×
アンネ=ゾフィー・ムターヘルベルト・フォン・カラヤン1981
ギドン・クレーメルレナード・バーンスタイン1982×
トマス・ツェートマイアークリストフ・フォン・ドホナーニ1989
バイバ・スクリデサカリ・オラモ2009×
イザベル・ファウストダニエル・ハーディング2010〇×
ジャニーヌ・ヤンセンアントニオ・パッパーノ2015×

このうちファウスト盤については, 再現部では開放弦を省略しているように聞こえますが, 提示部は聴き取りが難しく, 共鳴で開放弦も鳴っているように聞こえます. ほんの10小節に満たないフレーズですが, 聴き比べてみると様々な個性が発揮されていてとても楽しかったです.

参考文献