鴨川のはりねずみ

Chebyshev多項式

目次

(第1種の) Chebyshev 多項式 $T_n ( x )$ は極めて良い性質を持つため, 広範な応用を持っています. 本記事では Chebyshev 多項式 $T_n ( x )$ を $$T_n ( \cos \theta ) = \cos n \theta$$ により定義し, 以下の重要な性質に証明を与えます.

  • $T_n$ は三項間漸化式 $$T_{n+1} ( x ) = 2 x T_n ( x ) - T_{n-1} ( x )$$ を満足する.
  • $T_n$ は $n$ 次多項式であり, 最高次の項の係数は $n \geq 1$ のとき $2^{n - 1}$ である. また偶奇性 $T_n ( - x ) = ( - 1 )^n T_n ( x )$ を持つ.
  • 乗法関係 $$2 T_n ( x ) T_m ( x ) = T_{n + m} ( x ) + T_{|n - m|} ( x )$$ を満足する.
  • 直交関係 $$\int_{-1}^{+1} T_n ( x ) T_m ( x ) \frac{ dx }{ \sqrt{ 1 - x^2 } } = N_n \delta_{n m}$$ を満足する. ただし $N_0 = \pi$, $N_n = \pi / 2$ ($n \geq 1$) である.
  • $T_n ( x )$ は区間 $[ -1, +1 ]$ に $n$ 個の零点を持ち, それは $$x_k = \cos \left( \frac{ 2 k + 1 }{ 2 n } \pi \right) \ \ (k = 0, 1, \cdots, n-1)$$ により与えられる. これを Chebyshev node と呼ぶ.
  • $T_n ( x )$ ($n \geq 1$) は区間 $[ -1, +1 ]$ に $n + 1$ 個の極値を持ち, その座標は $$x'_k = \cos \left( \frac{ k \pi }{ n } \right) \ \ ( k = 0, 1, \cdots, n)$$ である. またその極値は $T_n ( x'_k ) = ( - 1 )^k$ により与えられる.
  • $x_k$ を $T_n ( x )$ ($n \geq 1$) の $n$ 個の零点とするとき, $i, j < n$ に対して離散直交関係 $$\sum_{k = 0}^{n-1} T_i ( x_k ) T_j ( x_k ) = K_i \delta_{i j}$$ が成立する. ただし $K_0 = n$, $K_i = n / 2$ ($i \geq 1$) である.

三項間漸化式

$T_{n+1} ( \cos \theta ) = \cos ( n + 1 ) \theta$ に加法定理を適用すると $$T_{n+1} ( \cos \theta ) = \cos n \theta \cos \theta - \sin n \theta \sin \theta .$$ 同様に $T_{n-1} ( \cos \theta ) = \cos ( n - 1 ) \theta$ に加法定理を適用すると $$T_{n-1} ( \cos \theta ) = \cos n \theta \cos \theta + \sin n \theta \sin \theta .$$ 両式を比較すると $$T_{n+1} ( \cos \theta ) + T_{n-1} ( \cos \theta ) = 2 \cos \theta T_n ( \cos \theta ) .$$

$n$ 次多項式

$T_0 ( x ) = 1$, $T_1 ( x ) = x$ により $n = 0, 1$ のとき所望の性質を持つ. 次に, $n$ 以下の Chebyshev 多項式が所望の性質を持つとき, 漸化式から $T_{n+1} ( x )$ は $n + 1$ 次多項式であり, 偶奇性 $( - 1 )^{n+1}$ を持つ.

乗法関係

$n \geq m$ として一般性を失わない. $T_i ( \cos \theta ) = \cos i \theta$ および三角関数の加法定理により $$T_{n + m} ( \cos \theta ) = \cos n \theta \cos m \theta - \sin n \theta \sin m \theta ,$$ $$T_{n - m} ( \cos \theta ) = \cos n \theta \cos m \theta + \sin n \theta \sin m \theta .$$ よって両者の和は $2 T_n ( \cos \theta ) T_m ( \cos \theta )$ に等しい.

直交関係

変数変換 $x = \cos \theta$ により $$\int_{-1}^{+1} T_n ( x ) T_m ( x ) \frac{ dx }{ \sqrt{ 1 - x^2 } } = \int_0^\pi \cos n \theta \cos m \theta d\theta .$$ よって Fourier 級数の理論から右辺は $n = m$ のときのみゼロでない値を取り, それは $n = 0$ のとき $\pi$, $n > 0$ のとき $\pi / 2$ である.

零点

$T_n ( \cos \theta ) = \cos n \theta$ により, その零点は $\cos n \theta = 0$ すなわち $$n \theta = \frac{ \pi }{ 2 } + k \pi \ \ (k \in \mathbb{Z})$$ により与えられる. 故に $$x = \cos \left( \frac{ 2 k + 1 }{ 2 n } \pi \right) .$$

極値

$T_n ( \cos \theta ) = \cos n \theta$ は $n \theta = k \pi$ ($k \in \mathbb{Z}$) において極値 $( - 1 )^k$ を持つ. よって $$x'_k = \cos \theta_k = \cos \left( \frac{ k \pi }{ n } \right) .$$

離散直交関係

まず, $x_k = \cos [ ( 2 k + 1 ) \pi / 2 n ]$ により $$\sum_{k = 0}^{n-1} T_i ( x_k ) T_j ( x_k ) = \sum_{k = 0}^{n-1} \cos \left( ( 2 k + 1 ) \frac{ i \pi }{ 2 n } \right) \cos \left( ( 2 k + 1 ) \frac{ j \pi }{ 2 n } \right)$$ であり, 三角関数の積和公式からこれを $$\sum_{k = 0}^{n-1} T_i ( x_k ) T_j ( x_k ) = \frac{ 1 }{ 2 } \left[ \sum_{k = 0}^{n-1} \cos \left( ( 2 k + 1 ) \frac{ (i + j) \pi }{ 2 n } \right) + \cos \left( ( 2 k + 1 ) \frac{ (i - j) \pi }{ 2 n } \right) \right]$$ と書き換えることができる. よって次の形の和 $$S_{n, m} := \sum_{k = 0}^{n-1} \cos \left( ( 2 k + 1 ) \frac{ m \pi }{ 2 n } \right)$$ を計算すればよい. $m = 0$ のとき明らかに $S_{n, 0} = n$ である. 一方 $m \geq 1$ のとき, $\theta = m \pi / n$ とおくと $$S_{n, m} = \frac{ 1 }{ 2 } \mathrm{Re} \left( e^{\mathrm{i} \theta / 2} \sum_{k = 0}^{n - 1} e^{\mathrm{i} k \theta} \right)$$ と書き換えられ, 等比級数の公式によりこの和は $$\sum_{k = 0}^{n-1} e^{\mathrm{i} k \theta} = \frac{ 1 - e^{\mathrm{i} n \theta} }{ 1 - e^{\mathrm{i} \theta} } = \frac{ 1 - ( - 1 )^m }{ 1 - e^{\mathrm{i} \theta} }$$ と求まるので $$S_{n, m} = \frac{ 1 - ( - 1 )^m }{ 2 } \mathrm{Re} \frac{ e^{\mathrm{i} \theta / 2} }{ 1 - e^{\mathrm{i} \theta} } = \frac{ 1 - ( - 1 )^m }{ 2 } \mathrm{Re} \left( \frac{ - 1 }{ e^{\mathrm{i} \theta / 2} - e^{- \mathrm{i} \theta / 2} } \right) .$$ ところが右辺の括弧内は純虚数であり, 従ってこれはゼロである. 故に $$S_{n, m} = n \delta_{m, 0} .$$ もとの Chebyshev 多項式の和に戻ると, この結果から $$\sum_{k = 0}^{n-1} T_i ( x_k ) T_j ( x_k ) = \frac{ n }{ 2 } \left( \delta_{i + j, 0} + \delta_{i, j} \right)$$ が結論される. すなわち $i \neq j$ のときこれはゼロ, $i = j$ のときこれは $i = j = 0$ ならば $n$, $i = j \geq 1$ ならば $n/2$ に等しい. ■