鴨川のはりねずみ

「そして誰もいなくなった」読了

アガサ・クリスティーの代表作「そして誰もいなくなった」を今更ながら読み終わったので感想をまとめます (読んだのはおよそ一月前です).

以下 ネタバレ を含みます.

古典だけあってサスペンスとしては非常に楽しめました. 物語の進行に伴って生存者の間の緊迫感が高まっていく描写が現実味に溢れていて, 中盤を超えると読むのがやめられなくなります. まさに「クローズドサークルのお手本」です. 現代なら携帯電話が... 的なコメントが前書きにありましたが, そんなことは関係なく楽しいです. それを言うならホームズなんて馬車ですし.

ただミステリとしてはどうなんでしょう. まず, どうしても翻訳のために生存者の心情描写の部分がヒントになってしまうんですが, これはおそらくアガサ・クリスティーの意図ではないですよね. 原文を確認せねば...

また判事が偽装殺人をするというトリックはいかがかと. まず, 医者を騙して偽装殺人のトリックを手伝わせたというのは, さすがに騙されないのではと思ってしまいました. 判事が自分で自分も疑わしい的なことを堂々と言っている以上, いかに殺人をしそうにない人物であれ, 医者もその可能性が頭の片隅にあったのでは. それに偽装殺人することでどうやって犯人を追い詰めるつもりだったのか. まあこの点はあの段階では既にかなり精神的に追い込まれていて医者も頭が回っていなかったということで理解できますが. なので偽装殺人ではなく, 犯人が「誰もいなくな」るように仕込んで死んだのかと思って読んでいました. エピローグで椅子が動いていたという新情報が出てきてびっくりしましたが, よく考えればヴェラの部屋にロープなどを用意する必要があるのでどうしてもあの時点で生存者が他に一人必要ですね.

あと, いつ何を推理をすればよいのかわかりづらかったです. その点「読者への挑戦状」スタイルは明快ですけど作風によってはメタっぽいのがよろしくないのが難しいですよね. この方式はたしか辻村深月「冷たい校舎の時は止まる」で初めて見たと思います. それにサスペンスとして完成度が高すぎると推理より先が読みたくなっちゃいますし...

最後にひとつ. 短編の割に登場人物が多くて, 名前を覚えるのに苦労しました.